新しい仕事の進め方に提案を/価格によらない競争

国土のメンテナンスが地元建設業の仕事
日原洋文建流審が記念講演

6月12日開催された全中建の総会後、国土交通省の日原洋文建設流通政策審議官が「建設業をめぐる最近の状況」をテーマに行った講演の要旨は次のとおり。

受注競争が激化して、ダンピング受注が横行し、需要が減少したために企業はリストラを図り、若い人の採用を控えた。それにともない、高齢化が進み、賃金も下がった。新規採用がないために、工業高校の建設関係の学科が減ってしまい、若い人を採用しようとしても、採用できずに大慌てしているのが実情だ。

▽国が維持できなくなる

平成22年の国勢調査によると、60歳以上の建設技能労働者は52万人で、全体の約2割を占める。この52万人は10年以内に離職する。さらに、50~59歳が69万人いる。今後、メンテナンスや維持管理の仕事が増えるので、40~50兆円の建設投資が減ることはないだろう。したがって、これ以上、建設技能者が減ったら国が維持できないので、10年以内に離職する2割の技能者の確保が大きな課題だ。

そのために担い手確保の対策を講じている。今年度は設計労務単価を約15%引き上げた。ダンピング受注した工事の労務費を調査したのでは、適切な実勢価格が得られないので、応札した全員の平均を基準にして決めた。

15%の引き上げによって労務単価は10年前の水準に戻ったが、この引き上げにマスコミからの批判は一切見られなかった。現場の労働者が社会保険にも加入せず、賃金が安くて苦しんでいる。賃金を上げないと、マスコミも日本の社会資本整備の担い手がいなくなるということを理解したからだ。
ダンピング受注が横行して企業も苦労したと思うが、労務単価は、社会インフラ整備の担い手がいなくなるために上げたのであって、建設企業のためではない。

▽労働者から回復させる

今後は、どこから景気を回復させるかが課題だ。上(元請)から下(労働者)へ回復する方法では世間が納得しない。それで、いま適切な賃金を労働者に払ってほしいとお願いしている。

ダンピング対策も重要な課題で、低入札価格調査の基準価格を引き上げてきた。算定式の一般管理費等の30%は低すぎるというので、55%に引き上げた。都道府県にも通知を出したが、新基準か、それ以上のレベルで運用しているところが多い。

これまでの入札制度に対する考え方は、目の前の工事をきちんと施工できるかどうかに判断基準を置いてきた。建設業の供給過剰対策を目的として実施してきたためだが、いま目の前にあるのは、供給過剰対策ではなく、現場における供給がきちんと維持できるのかどうかという問題である。

そうすると、中長期的には国土のメンテナンスに対応できるのかどうかということが課題になってくるので、このことを入札制度の中に組み入れることが今後の大きなテーマになると思っている。

その際に問題となるのは、企業評価・選定の理念の明確化と行き過ぎた価格競争の是正である。発注者はとかく価格で決めがちで、特に市町村レベルでは価格競争が激しく、極端な場合には、くじ引きになっている。くじ引きは国民のためにはならない。何とかしないといけないという問題意識を持っている。

▽維持管理業務には提案力

悩みの一つは、行き過ぎた価格競争の是正だ。価格以外のところで競争し、競争を止めることではない。技術力がすぐれている、品質がよい、地域に精通している、災害発生の際にすぐ駆けつけられるといったことで競争するのである。

他の産業界は、他社との比較で、自社のすぐれている点を強調するが、建設業は差をつけずに一緒にしてほしいという。そのために発注者が違いを理解できない。簡単に理解できるのが価格なので、それで価格競争になってしまう。

これからは維持管理の仕事が大事になる。維持管理の仕事は、新設の工事とは違い、「これだけのお金しかかけられない。それでできるかどうか」という発注になると思う。この場合、受ける側は提案力が問われることになる。維持管理の業務は、地元企業が対象になり、その提案力が求められることになる。

▽まとめて受注する仕組み

これまで分割発注を行ってきた。この方向は今後も変わらないと思うが、分割発注は万能ではない。維持管理の仕事は規模が小さいので、その工事で利益を出すのは厳しい。そのため、除雪だけでは生活ができないので維持管理の仕事などとセットにして、複数年の契約をする。これは、あきらかに分割発注とは逆の形だ。したがって、受ける側が仕事をまとめて受注することがあってもいいのではないか。

価格以外の競争となると発注者も受注者も手間とコストがかかり、場合によってはコスト割れが生じるかもしれない。コスト割れが生じないために、どういう方法を採用すればいいのかという点にも悩んでいる。

ダンピング受注のしわ寄せが下請企業にいくのはなぜか。安い札を入れた本人にリスクがとどまるのであればいいのだが、リスクは下請に回っていく。下請のリスクで元請は安い価格を入れている。その結果、みんなが困っている。リスクが下請に回らない方法がないのかも悩みの1つだ。

▽ヒントはCM方式

1つのヒントは東日本大震災の被災地で採用しているCM方式にある。発注者も受注者も人手が足りないので、大手企業の手を借りて事業を進める方式だ。被災地の仕事を大手企業に頼んで、地元企業が疲ひ弊へいしたのでは元も子もないので、地元企業を優先的に活用することを条件に大手企業にCM方式で発注する。発注者は下請契約の中身、支払った金額をチェックして、支払った額の一定割合を大手企業にフィーとして支払う。この方式だと下請をたたくメリットがないので、確実に下請への支払いが確保される。

この方式の問題点は手間がかかるので、かからない方法がないか。小規模な工事で採用するとコストがかかるので規模をまとめざるを得ない。その場合、従来の元請、下請という組み合わせではない、新しい組み合わせを考える必要があると思う。きちんと施工する人、全国的に仕事を取ってくる人、技術を開発する人など、いろいろな人が集まって仕事することも必要になるかもしれない。

日本は直営方式からスタートしているので、発注者が設計して、それに基づいて受注者が施工する仕組みだが、ほんとうは施工者のほうがよく知っていて、こうすればよかったということがけっこう多いのではないか。ところが、受注者の提案を受け止める仕組みがいまの入札制度にはない。

これからの維持修繕事業では、施工者から提案を受けたほうがいいものをつくれる可能性が多くなると思う。ヨーロッパには、交渉方式として施工者の提案を受け入れる仕組みがある。機械や人を抱えている企業に発注すべきだという意見がある。もっともな意見と思うが、現実にはそれを徹底すると困る人もいる。機械などを保有してないと困る工事とマネジメントを主体とする工事があり、どこに線を引くのかが問題だ。

▽根本的な体質改善への道

地方自治体の土木職員数は、建設投資のピーク時(平成6年)に比べ約25%も減少している。公共事業予算が削減されたので、職員数の減は当然だが、予算が減少したわりに職員の仕事は減っていない。
それをカバーする一つの方策は、発注者の業務を受注者に一部肩代わりしてもらうことで、こうしたことも今後必要になると思う。

社会インフラのメンテナンスができるか、防災対応ができるか、そのための仕組みを考える中で、建設業の根本的な体質改善が進んでいくと思う。発注者も受注者も担い手が不足している中で、今後どういう方法をとればいいのか、これまでの延長線上ではない、新しい仕組みを考える時期にきている。

そのために皆さんには、これまでとは違う仕事のやり方を提案してほしい。価格によらない競争、分割も大切だが、仕事を束ねて皆で仕事を受ける仕組み、地元企業と大手企業、コンサルタントとの組み合わせなど、皆さんと一緒に考えたいので積極的に提案してほしい。

10年後には現場で働く人がいなくなるので、いま対策を講じないといけないと思っている。