【平成25年新春対談】ことしこそ苦境打開の年に

国民の生命・財産と国土を守る

国土交通省土地・建設産業局長佐々木基氏
(社)全国中小建設業協会副会長・広報委員長豊田剛氏
(社)全国中小建設業協会広報委員加藤徹氏

インフラや雇用を守り、地域に貢献するのが地域の建設業の役割だ。その建設業が危機的状況にある。数年来打ちつづく公共事業予算の削減、過当競争によるダンピングの横行……。適正な賃金水準が確保できないため、若年労働者の入職は望めず、技能者の高齢化も進む一方だ。国土交通省の佐々木基土地・建設産業局長と全国中小建設業協会の豊田剛副会長・広報委員長、加藤徹広報委員が苦境打開策を求めて語り合った。

長期的な人材確保・育成が必要

◆地域建設業が疲弊/インフラ守れず
――中小建設業の経営環境は非常に厳しい状況に置かれていますが、行政の立場から中小建設業の現況をどのように見ていますか

佐々木
たしかに一言でいって非常に厳しい状況にあると認識しています。この20年間に民間投資も公共投資も2分の1に減少したのが最大の要因であり、その結果として過当競争状態になって、ダンピング受注が行われ、利益率が低下して、企業は職人や建設機械を手放してしまい、体力が衰えています。

こうして企業規模はどんどん小さくなっていくとともに、規模の小さい企業では、営業利益率が1%を割るという状況になっています。行政の立場からすれば、地域の建設業が疲弊(ひへい)して地域のインフラをしっかりと守ることが厳しい状況になりつつあると感じています。

――やはり我々にとって最も期待するのは、建設投資、特に公共投資の回復、増加です。公共投資に対する風向きが変わりつつあるように思いますが、25年度の公共事業予算の見通しはいかがでしょうか

佐々木
平成23年3月11日に発生した東日本大震災は、国民に多くの反省、教訓を残しました。日本の国土がいかに脆弱(ぜいじゃく)であるかということと、国土を守っていくことの重要性を改めて認識したと思います。国土強靭化(きょうじんか)の必要性がいたるところで唱えられるようになったのも必然だと思います。

公共事業については、その本質を見誤って「予算のばらまき」「建設業者を潤わせるだけのもの」といった論調がかなり広がっていました。しかし、最近では「国民の生命・財産を守り、国土を守るためには公共事業にしっかり予算の手当て、人材の配置が必要だ」という当たり前の議論がやっとできる雰囲気になってきました。

25年度の予算は、まだ詳細がわかりませんが、そういう認識のもとで新しい予算が編成されることを期待しています。

新しい時代に対応した発展を

◆復興へ全国的な支援体制構築

――私どもも千載一遇のチャンスととらえて期待しています。東日本大震災から1年9カ月以上が経過しましたが、復旧・復興事業はまだまだ進んでいないようです。鉄筋工や型枠工などの技能工不足が被災地だけでなく、全国的に深刻化していますが

佐々木
東日本大震災後に改めて認識したのは、あらゆる分野で人が足りなくなってしまったということです。発注者側の地方自治体にも発注できる技術者もいなければ、土地を確保しようにも用地の専門家がいないという状況になっていますし、いざ工事に着手しようとしても事業者側にも技術者、技能者がいないという状況で、ないない尽くしになっている実態を思い知らされました。

少子化時代を反映して、日本全体に働き手の層が薄くなっていますが、建設業は7~10年先取りしている形になっています。29歳以下の就業者が1割になっている一方、55歳以上が3分の1を占めており、他の産業に比べ高齢化が進んでいます。

こうした実態を改善するため、長期的に国をあげ、業界をあげて人材を確保・育成していく必要があります。ニートやフリーターが多いという、ミスマッチの問題もありますが、それを克服して人材を確保しなければなりません。

一方、東日本大震災のような大規模な災害時では短期的に全国的な支援体制を整えない限り、復旧・復興事業は進みません。復興JV制度を設けたのも将来の大規模災害への対応も視野に入れてのことですが、被災地では今後、集団移転事業が本格化した場合、技能者不足に陥(おちい)るのは目に見えています。全国的な支援体制を確立しないと復興事業は成し遂げられないと思います。

--支援体制となると、労務単価が実勢価格と乖離(かいり)しているとか、交通費や宿泊費といった問題もあり、その対応が必要となりますね

佐々木
現状を的確に把握したうえで、必要な経費は迅速に措置していく必要があると考えています。

◆未加入者が加入できる環境整備を

――ぜひスピード感をもってやっていただきたい
社会保険加入への対応が平成24年11月から動き出していますが、中小企業、専門工事業者は、この問題で発注者(元請)の立場にある大手企業からのしわ寄せを受け、負担が増えるのではないかと危機感をもっています

佐々木
人材を確保・育成しないと建設業も、ひいては日本のインフラも立ち行かなくなる状況のもとで、社会保険加入は人材確保策の1つとしても大切な問題です。さらに新しい時代に対応した建設業に発展していくためにも、避けては通れない課題と思っています。

どのような規模の会社であれ、社員を守るところが企業として伸びていけるような世界を築かないといけません。この点で建設業は、これまで他の産業に比べ遅れていたといえます。建設業が基幹産業として再生・発展していくためには、職人を守ることが大切です。その手立ての1つが社会保険加入だと思っています。

しかし、そのためには企業にただ社会保険に加入しなさいというだけでは、難しいと思います。企業がしっかりした財政的基盤をつくり、未加入者が加入できる環境を整えることも並行的に進める必要があると考えています。

福利厚生費は、競争で勝ち取るお金ではなく、仕事を行ううえで当然支給されるべきものです。福利厚生費は企業間競争の前提となる、競争の対象とすべきでない経費です。そういう環境を行政、元請、下請、民間発注者を含めた発注者が一体となって構築しなければなりません。私どもが現在取り組んでいるのはそのための運動だと思っています。

――社会保険加入の必要性は十分に理解していますが、憂慮するのは末端の職人や作業員まで福利厚生費が行き届くかということです。末端までお金が流れるように制度的なフォローアップもお願いします

佐々木
私どもの目的は、社会保険への加入を促進することであり、未加入者を処分することではありません。加入促進の運動を進めながら、同時に、手立てを講じた結果どういう状況になったかを、常にフォローアップしながら、運動を進めていくことにしています。

できるだけ多くの人に加入していただくためにはどうするかということなので、その過程で、皆さんに耐えていただく局面が生じることがあるかもしれませんが、ぜひ協力していただきたいと思います。

地域の建設業を生かす基盤づくりを

◆自治体のダンピング対策が不可欠

――社会保険加入問題のもう1つの側面としてダンピング受注の問題があります。これまでさまざまな防止対策が講じられていますが、いまだに多く発生している実態があり、制度的な対応が十分ではないと思いますが

佐々木
ダンピング受注の防止は、最大の問題ととらえています。地域に密着して職人を抱え、いい仕事をしている企業には安定的に仕事をしてもらうことで、人材を確保できる仕組みが必要だと考えています。

そのためには、地方自治体の役割が大きいと思います。最近、このままでは地域の建設業者がいなくなってしまうという危機感をもって、制度見直しに取り組む自治体が増えています。ダンピングによって建設業が疲弊してしまい、地域のインフラが守れないというしっぺ返しを受けるということを自治体がわかってきて、地域を守るのにふさわしい制度はどうあるべきかを考えるようになってきました。自治体を含めて皆でこの課題を考える必要があります。

――復興工事でもダンピングが起きています。官と民が知恵を出し合ってその防止に努めることが大切ですね。ところで、建設業の発展方策として、大手企業は海外へ、地元企業は地元でという方向が示されたと思いますが、現在もこの方針は堅持されているのでしょうか

佐々木
あくまでも民間企業の活動なので、企業規模に応じて、この方向に進みなさいということはいっていません。中小企業でも海外に進出して仕事をしたければやればいいし、大手企業でも災害時には全国から人や機材を集めて対応しています。要は、それぞれの企業がもつ利点を生かして仕事をやっていただきたいということです。

これだけ防災がクローズアップされてくると、地域のインフラを守る地域の建設業の役割は一段と大きくなります。地域の建設業は、地元のインフラがどのような状態になっているかを熟知しており、ひとたび災害が発生すれば被災現場にいち早くかけつけ、復旧にあたり、地域を守ってきました。特に、遅くとも数十年後には大災害の発生が予想されている現在、地域に密着して安全・安心を守る建設業の役割に対する国民の期待は、ますます大きくなっていると思います。

地域に密着している企業にしかできない仕事にどのように参画してもらうか、地域において建設業を生かすための基盤を行政がつくるべきであると思っています。

国民に対し積極的に発信すべき

◆まだ横行する予定価格の事前公表

――現場説明がなくなって、すべてパソコンで行われるようになっています

佐々木
発注者側もリストラによって職員が少なくなり、書面上やパソコンでやる仕事が多くなっています。そのために現場に足を運ばなくなって、担当者が現場の状況に疎(うと)くなっています。それが日本の行政の大きな問題の1つだと思っています。

――現場を知らずに仕事をするということになりますね。超党派で検討している予定価格制度の廃止は可能性があるのでしょうか。また、予定価格の事前公表を実施している自治体がまだ多くあります。国の指導はどのようになっているのでしょうか

佐々木
予定価格の上限拘束(こうそく)制については、いろいろ議論がありますが、仮にこの制度がなくなっても入札にあたっての目安となる価格は必要となります。どのような価格であれ、ダンピング受注が発生すれば、無意味になってしまいます。それでまず正すべき最大の課題は、制度面でのダンピング排除ととらえています。その前提のうえで、諸外国の制度も参考にしながら予定価格制度をどうするかが検討課題になると思います。

予定価格の事前公表は地方自治法で認められている制度なので、自治体に「やめろ」とはいえません。入札は自治体固有の業務であり、いわば不可侵の世界ですので、廃止するには首長をはじめとして発注者に理解を求めるしかありません。事前公表を行っている自治体は徐々に減少していますが、事前公表によってどのような弊害が起きているのか、実態を自治体に伝えて理解を得ることが大切です。私どもも事前公表が好ましくないことについては自治体にお伝えしていますが、全中建だけでなく業界全体としてもぜひ発言してほしいと考えています。

◆地域を守る中核的存在・全中建

――事前公表することで不祥事の発生を防ぎたいという思惑も発注者にはあるのでしょうが……。全中建会員に期待すること、担うべき役割などについてうかがいたいと思います

佐々木
かねがね思っているのは、国民に対して発信をしっかり行ってほしいということです。全中建に限らず、建設業界には請負の性質上、仕事の相手は発注者に限られることから、自分が社会的に果たしている役割などについて、自ら国民に発信することはほとんどしません。直接国民を相手にしている他産業では自分の優れている面を国民にしっかり主張しないと売り上げにひびきますが、建設業は誇れる仕事をしているのに、そのことを自ら発信しないために国民から理解されていません。よくいえば謙虚さということでしょうが、もはや謙虚さを自慢するような時代ではなくなっています。発注者に対しても、国民に対しても積極的に発信していくべきです。

――たしかに建設業からの発信は少ないですね

佐々木
建設業は全産業の1割を占め、社会的にも極めて重要な役割を果たしているのに理解されていない。これからは単に入札に参加して仕事をとればいいというのではなく、発注者の後ろにいる国民の視線を意識していく必要があります。

――最後に全中建会員へのアドバイスをいただきたいと思います

佐々木
全中建会員は皆さん、建設業の地域における役割などについて大変意識の高い方々ばかりで、地域を守るのにふさわしい方々だと思います。

建設投資の落ち込みに比べて企業数の減少が少なく、市場の調整がうまく進んでいない中ではありますが、全中建会員は地域を守る中核的存在としてやっていただける方々だと思いますので、苦しいでしょうが、どうか頑張っていただきたいと思っています。地域を守れるのは皆さんだと思っています。

--ありがとうございます。今後とも中小建設業が発展できるようご指導賜りますようお願いいたします