社会保険未加入問題のQ&A

今年7月に決められた「社会保険の加入に関する下請指導ガイドライン」が11月1日から施行になり、建設技能者などの社会保険加入に向けた対策が動き始める。社会保険加入に向けては、元請企業に大きな役割を担わされている。社会保険未加入問題について要点を解説する。

--社会保険加入を進める目的は
法定福利費を適正に負担しない企業が存在し、そのために医療や年金などの公的保障が確保されず、若年入職者減少の一因となっているほか、関係法令を遵守して適正に法定福利費を負担する事業者ほど競争上不利になっているところから、就労環境と不完全な競争市場の改善を目的にしている。

--社会保険加入の達成目標は
国民に加入が義務付けられている保険制度のうち健康保険、厚生年金保険、雇用保険の3保険を対象としている。実施から5年後の平成28年度末を目途に、事業者単位では許可業者の加入率100%、労働者単位では少なくとも製造業と同水準の加入状況の達成を目指している。

--社会保険加入へ向けて講じられる対策とは
建設産業行政として建設業許可・更新時や立入検査などにおける加入状況の確認・指導、経営事項審査の厳格化、社会保険担当部局への通報。元請企業は下請企業の加入状況の把握と加入していない企業への指導を行う。
--建設業許可・更新時の確認・指導とは
建設業の許可や許可の更新時に、添付書類として「健康保険等の加入状況」の提出を求め、加入状況を確認、未加入の場合は加入を文書指導、加入状況の報告を求める。指導に応じない場合は社会保険担当部局へ通報する。

通報を受けた保険担当部局は加入指導を行い、それでも加入しない場合は強制加入の手続きをとる。この場合、過去2年間にさかのぼって保険料が請求される場合もある。
--経営事項審査の厳格化とは
すでに改正済み。改正前の経審の社会性(W点)における労働福祉の状況の審査項目のうち、「健康保険・厚生年金保険」と「雇用保険」が未加入の場合、各30点の合計60点が減点されていたが、改正後は審査区分を「雇用保険」「健康保険」「厚生年金保険」の3区分に分割、それぞれの減点幅を40点に拡大し、いずれにも加入していない場合、W点の評価で120点の減点となる。これにより総合評価値(P点)は最大で171点の減点となり、改正前に比べ減点幅が85点拡大した。

--立入検査はどのように行われるか
すべての建設企業が対象となるが、とくに下請取引など実態調査の結果に問題のある企業、下請などからの違反通報などのあった企業が対象とされる。

本店や営業所への立入検査は、加入状況を確認するため、加入状況が確認できる領収書、納入証明書などの書類の提出が求められる。工事現場への立入検査では、下請に保険加入の指導をどのように行ったかが調べられる。

立入検査で未加入が判明した場合、指導文書で加入指導が行われる。それでも加入しない場合は、保険担当部局への通報、許可行政庁からは建設業法に基づく監督処分を受ける。

--元請企業が加入状況を把握しなければならない下請企業の範囲は
下請契約の有無、建設業許可の有無にかかわらず、当該工事に従事するすべての下請企業が対象となる。

--下請企業の社会保険の加入状況はどのように把握するのか
直接の下請契約の相手方に対しては下請企業の選定時に保険料の領収済通知書などのコピーを提示させて確認する。2次以下の下請負人については、再下請負通知書の「健康保険等の加入状況」欄により確認する。

また、新規入場者の受け入れに際して、各作業員については作業員名簿の社会保険欄を確認することで作業員単位の保険加入状況を把握する。

--作業員名簿による確認・指導方法とは
作業員名簿の社会保険欄を確認した結果、(1)社会保険欄が空欄となっている作業員(2)法人に所属する作業員で健康保険欄に「国民健康保険」、年金欄に「国民年金」と記載されている作業員(3)個人事業所で5人以上の作業員が記載された作業員名簿の健康保険欄に「国民健康保険」、年金保険欄に「国民年金」と記載されている作業員がいる場合は、適用除外者を除き、作業員を適切な保険に加入するよう指導する。

なお、元請への作業員名簿の提出に当たっては、利用目的を示したうえであらかじめ作業員の同意を得ることが必要である。

--適用除外となる作業員とは
「健康保険」「厚生年金保険」は、個人経営の事業所のうち常時使用する従業員が5人未満の事業所の作業員、臨時に2カ月以内の期間を定めて使用され、その期間を超えない者、臨時に日々雇用され、1カ月を超えない者、季節的業務に4カ月を超えない範囲で採用される者、臨時的事業所に6カ月を超えない期間、使用される予定の者。

「雇用保険」は、昼間学生、65歳以上で新たに雇用された者、4カ月以内の季節的事業に雇用される者、週20時間未満しか働かない人、役員報酬のみ支給されている者、個人事業主――が適用除外となる。また、保険加入状況の把握は、建設業に従事する作業員を対象に行うとしており、事務員、清掃員、場内整備員、残土運搬運転手など現場の建設労働者以外の者は対象外である。

--1人親方の扱いは
1人親方が事業主として受注した場合は、適用除外になる。しかし、事業主が労務関係諸経費の削減を意図し、これまで雇用関係にあった労働者を個人事業主にすることがあるが、請負契約の形式をとっていても業務遂行上の指揮監督の有無、専属性の程度などの実態が雇用労働者であれば、労働者として保険関係法令が適用される。この場合、保険料の追納もあり得る。

--下請企業が元請の指導に応じない場合は
下請指導ガイドラインは、遅くとも平成29年度以降においては健康保険、厚生年金保険、雇用保険の全部または一部について、適用除外でないにもかかわらず未加入である建設企業は下請企業として選定しない取り扱いをすべきとしている。

また、適切な保険に加入していることが確認できない作業員については、元請企業は特段の理由がない限り、現場入場を認めない取り扱いとすべきとしている。

--保険未加入の下請企業を使った場合の罰則は
保険未加入企業との下請契約を禁止したり、契約を結んだ際の罰則を定めた法令の規定はない。しかし、若年入職者の確保に必要な技能労働者の処遇改善と企業間の健全な競争環境の構築という保険未加入対策の趣旨を的確に踏まえた対応が求められるとしているが、社会保険の適用除外でないにもかかわらず未加入の建設企業は社会保険の法令を遵守しない不良不適格業者に該当するとしているので、そうした下請企業は選定しない取り扱いとすべきとしている。

--法定福利費の計上は
国交省は、公共工事の予定価格に法定福利費が適切に計上されるように現場管理費を見直すとともに、民間を含めた発注者に法定福利費の確保を要請している。専門工事業団体が法定福利費を確保するための標準見積書を作成する。