被災地の建設業はいま

全中建震災対策本部が宮城、岩手の会員と懇談
進まぬ復興事業/高騰する労務費・資材費

全国中小建設業協会の全中建東日本大震災対策協力本部は、震災発生から間もなく1年を迎える2月21、22の両日、被災地である宮城、岩手両県を訪ね、被災地域を視察したあと、会員であるみやぎ中小建設業協会(宮中建)と全中建岩手の幹部と懇談した。

今回の対策協力本部による被災地訪問は、災害の復旧・復興事業に日夜精力的に取り組んでいる会員がどのような問題や悩みを抱え、それに対して全中建本部が実施すべき支援策としてどんなことが考えられるかを探るために行ったものだ。

参加者は豊田剛副会長・広報委員長、河﨑茂理事(神奈川県中小建設業協会会長)、土志田領司理事(横浜建設業協会副会長)、宮崎友次専務理事の4名。

1日目の21日は、国土交通省東北地方整備局を訪問したあと、仙台市郊外の被災地で宮中建の会員企業が進めているがれき処理の現場などを視察、その後市内に戻って、宮中建の正副会長と懇談した。

東北地方整備局には畑中孝治宮中建会長が同行、板倉靖和用地部長を表敬訪問したあと、白石秀俊建政部長と懇談した。

○復興JV活用して対応を
白石建政部長は、2月14日にまとめられた、復興JVや技術者要件の緩和などを柱とする「国土交通省における復旧・復興事業の施工確保対策」と同20日付けで出された設計労務単価の改定などについて説明した。

その中で同部長は「地元の業者、作業員だけでは足りないのは事実であり、事業を進めるには他地区からの応援、支援が不可欠である。復興JVを用意したので、これを活用して対応してほしい。その際に必要となる宿舎や交通費の取り扱いが検討課題になっている」「設計労務単価の見直しも3県(岩手県、宮城県、福島県)だけでいいのかどうかなど、対策を実施する上でいくつかのハードルがあると思うので、話をよく聞いて対応していきたい」などと語った。

○Cランクの受注範囲拡大
続いて、同局の災害対策室で川嶋直樹企画部長と懇談した。50インチのモニターに映し出される映像を使って、震災発生直後の各地の被災状況の説明を受けたあと、同局の復旧・復興事業の進め方に関する協会側の質問に対して、川嶋部長は次のように答えた。

「平成23年12月末で災害の査定が済んだところだ。宮城県の土木の事業費が8000億円、漁港を含めると1兆円を超える事業が今後何年かにわたって行われるわけだから、人手が足りなくなる。これらの事業に技術者、作業員、資材が対応できるのか、関係者と情報を共有できる体制を立ち上げたいと考えているが、まだ情報が出揃っていない」

「入札不調の件数はいまのところ、地整では例年並みだが、宮城県は5000万円以下の工事で多く発生、岩手県も多少あるようだ」

「労務費、資材単価が上がっている。労務単価は3県だけだが、2月20日付けで改定した。インフレ条項の適用についても柔軟に対応する。技術者の要件も緩和し、現場間が5キロメートル以内であれば、発注者が異なっても兼務を認める。復興JVの監理・主任技術者は代表者だけでよいというようにしている」

「工事はボリュームを上げて発注する。たとえば三陸道トンネルは50~60億円の規模だが、その場合でも標準2.型を採用し、技術提案は1つしか求めていない。その代わり長期保証を要請している。品質確保が大切なので、その担保として求めている」

「通常3億円以下の工事はCランク業者が対象だが、これをWTO対象工事となるぎりぎりのところまで引き上げ、BプラスCランクとし、Cランク業者が受注できるようにした。件数は多くなる。すでに発注した工事もある」

「復旧・復興工事はまず地元の業者に頑張ってもらう。その際、災害協定、局長表彰などが評価の対象となる。しかし、これからは被災地域の業者だけではやりきれない量の仕事が出てくる。地域のしばりをどういうタイミング、どんな方法で広げるかを詰めることになる」

「その場合、交通費、宿舎なども検討課題になるだろう。ダム工事では宿舎を設けた例もある」
このあと、名取市と仙台市の被災地へ向かった。畑中会長のほか宮城洋幸、船山雅弘両副会長、泉川邦夫事務局長も同行、現地を案内してもらい、沿岸部の被災地と荒浜地区で会員が行っている震災廃棄物の処理状況を視察した。

現地見学のあとに行われた懇談会には、三浦義澄、高橋甚吾両副会長と浅野新一県北支部長も加わり、正副会長と支部長の協会幹部が全員顔を揃えた。

○県との災害協定目指す
懇談会は、宮中建の畑中会長と全中建本部の豊田副会長がそれぞれ挨拶したあと懇談に移った。
宮中建は、平成22年7月8日に一般社団法人として設立、同年9月に全中建に入会した。宮城県全域を活動範囲として、現在の会員数は41社。県北、仙台、県南の3支部を置く。

畑中会長は「会員の増強拡大に目標を決めて全力をあげて取り組んでいる。ことしは復興元年といわれる大事な1年。全中建の指導を受けて社会貢献に頑張りたい」と当面の課題をあげ、その実現へ意欲を示した。

東日本大震災は、協会発足後間もなくして発生した。会員企業はさまざまな分野の復旧・復興事業を担っている。仙台市若林区荒浜地区の震災廃棄物仮置き場の維持管理業務をはじめ河川復旧、道路復旧、道路補修修繕、陥没復旧、がれき撤去、農地復旧除塩、家屋解体、教育施設被害調査、応急危険度判定、公共施設復旧工事(学校など)、住宅の改修、さらには遺体の捜索まで多様な活動を行っている。また、会員などから集めた義援金を宮城県と仙台市に届けている。

こうした活動が評価されて、2月、村井嘉浩宮城県知事から感謝状が授与された。被災地の復旧・復興に大きく貢献している宮中建だが、悩みもある。その1つは、宮城県と災害協定を締結できず、会員の活動が著しく制限を受けている点だ。

畑中会長は「がれき処理や家屋解体などの業務を宮中建の会員が行う機会を与えてほしいと県や市に要請したが、まず災害協定ありきで、災害協定を結んでいる団体の会員企業でないと受け入れてくれない」と実情を語る。実際は宮中建の会員が復興事業に携わっていないわけではない。がれき処理などの業務を手がけているが、産廃協会に加入している宮中建会員が行っているもの。その会員が宮中建会員であることを表に出すのは当局に断られたという。

「災害協定だけを評価の対象とするのはおかしい。協定を結んでいない団体の会員でも優れた業者がいる。活動の機会を与えるべき」「指名参加願いを提出している企業は参加させるべき」という意見もある。

仙台市とは災害協定を締結しているが、対象となるのは仙台支部に所属する16社。畑中会長は全会員に広げたいとして、県に「災害協定を結び、県協会の会員と同じ土俵で競争させてほしい」と要請する。

もう1つの問題は労務費、資材価格の急激な上昇である。そのために入札不調となる工事は50%を超え、指名入札でも入札辞退によって応札者ゼロというケースもあるという。新年度に入って県だけでなく市町村からも工事が一気に発注されたら、70~80%の工事は入札不調になるとする見方も出ているほど、価格高騰の影響は大きい。

入札不調対策として国交省は被災地3県の労務単価改定、インフレ条項の柔軟な発動を打ち出したが、それが事態の打開に直ちに結びつくとは受け取っていない。

○実勢と乖離した労務単価
今回の労務単価改定で宮城県の全職種平均の上昇率は7.8%。1万1100円の普通作業員の労務単価が700円アップでは人が集められない、採算が確保できない、と畑中会長は言い切る。

石巻のがれき処理の実勢労務費は1万8000円だという。実態との乖離を是正する労務単価の改定になっていないというわけだ。

スライド措置の発動についても楽観視していない。「着工して間もなく地震が発生した。工事を再開したいが、資材価格も労務費も上がったので、スライドを求めたが、いい返事はない」「骨材、生コン、鋼材などあらゆる資材が上がって負担が増えるだけ」とスライド措置にもあまり期待はしていない。

○価格安定まで受注自粛
新潟県中越沖地震の復旧・復興事業に携わったある協会幹部は「当時、仕事は10年続くと言われ、職人を連れて行った。ところが、県の工事は3年で終了した。受注した仕事はすべてが赤字で、最後に受注した6億円の工事で何とかセーフになった。今回も2年後には価格の変動が落ち着くと思うので、それまでは土木の受注をこれまでの半分か3分の1に抑え、解体工事の受注を伸ばそうと考えている」と語る。価格面で経営が安定的に成り立つのは2、3年後とみている。

国交省は他県の企業の支援を受ける目的で復興JVを打ち出し、宮城県がいち早く4月からの導入を表明した。「復興JVをもっと早く打ち出してもらえば、仙台に来たい業者とJVが組めた」とこの措置を半ば歓迎するが、同時に「価格動向を十分に理解した上で技術者、職人を連れてきてほしい。宿舎のことも考えておく必要がある」と注文をつける。

復旧事業について、県は3年という期限を設定している。それに対し、「何を基準に3年間と決めたのか」と懸念を示す。

「具体的な復興プランが出来あがって、工程が決まっているわけではない。仙台はがれきの撤去は進んでいるが、石巻などはまだがれきが残り、行方不明者の捜索も行われている。高台に移転するのかどうか賛否があって、まだまだ決めなければならないことは多い」「人手が足りない。工事の受け手もいない。工事が進まない」という事情を理由にあげる。

その上で、「補正予算による事業の執行期間を延長すべき」「国は事業の延長を決めてほしい」と提案する。

価格上昇は工事が集中するという思惑から起きている。事業が長期化すれば価格の上昇、作業員などの需給も緩和されるという効果もある。

懇談会では最後に畑中会長が「建設業が悪いイメージにならないように努力する」と結んだ。マスコミが、仙台の歓楽街は復興事業で潤った建設業者で賑わっていると報道したことに対し、建設業者は歓楽街へ足を向けていないことを社会にアピールしたい、と話した。

○復興ビジョンなく不安と期待交錯
2日目の22日は、盛岡市の岩手県建設会館で全中建岩手との懇談会をもった。全中建岩手からは、山元一典支部長と岩手県建設業協会の宇部貞宏会長、山本博専務理事、藤沢邦雄常務理事が出席した。最初に宇部会長が岩手県内の現況について次のように語った。「県内の被災は、津波による沿岸部の被害のように思われているが、23年4月に発生した余震によって、宮城県北部から岩手県南部の内陸部が大きな被害を受けた。その後の異常な寒さと降雪によって、岩手はまさに弱り目にたたり目の状態。復興ビジョンが打ち出されていない中、事業は現在、がれき処理が主体で、復旧工事がぼちぼち出始めたところだ。どこに、どれだけのものがつくられるのか一向に見えてこないので、業界内は不安と期待が交錯している」

「公共事業予算の削減が続いたので、会員530社は企業規模の縮小を図ってきた。そうした中で大震災が発生したため、業界の対応には厳しい面もある。復旧工事の期限は3、4年と切られている。全力を投入して県民の期待に応えたいと考えている。がれき処理は沿岸部の10地区で進む。仮置き場までは地元企業が受け、仮置き場から最終処分までを大手と地元のJVが担当している」

「これまでに明らかになっている事業費をみると、国全体の復興事業費は10年で23兆円。岩手県はおおむね8年で総額8兆円規模との見通しだ。岩手県の24年度予算額(要求額)は、1兆1383億円、うち震災関係は4666億円。また、今回の大震災に伴う公共土木施設の災害査定は2049カ所、2479億円。防潮堤や水門など大規模施設は5年、その他の施設は3年を目途に早期復旧を図る」

このように復旧・復興に向けて予算が計上されているが、すべてに用地の手当てがついているわけではないので、本格的な発注は秋以降とみられている。しかし、寒冷地の岩手での秋以降の発注では施工環境が厳しくなる。宇部会長は「ことしの工事がクリアできれば、来年は早々から仕事ができる」と語る。

○豊作貧乏にはしたくない
事業の執行方法になると地元業界は不安を感じている。宇部会長は「市町村は過度なくらい地元企業を大事にしてくれる。東北地方整備局の徳山局長は『地元企業のことは十分に考えるので、あせらないでほしい』と言っているが、県にはその視点が欠けている。その点に危機感をもっている」と打ち明ける。

岩手県の建設業界は、6年前に建築工事の受注をめぐり独占禁止法違反で摘発を受けた。これを契機に県は一般競争入札を全面採用した。宇部会長は「四国4県ほどの面積の岩手県で一般競争入札が導入されて競争が激化し、ダンピングが発生するようになった。指名入札に入札制度を改定するいい機会だと思っている」と制度改革に意欲を燃やす。というのも「豊作貧乏にはしたくない」という強い思いからだ。

地元業界はもう1つ、低入札価格調査基準価格、最低制限価格の引き上げも要望する。予定価格の90%で落札できれば若干の利益が確保できる。最終的に90%で受注できるように水準を引き上げてほしいというものだ。

岩手県は調査基準価格の算定基準値のうち、「一般管理費等×0.3」を「一般管理費等×0.6」へすでに0.3引き上げている。この0.6の数値がさらに0.8になれば基準価格が90%に達すると言われるので、目標達成はもう一息だ。宇部会長は「これからも皆さんの後方支援を受けて頑張りたい」と語る。

現在、県内工事の90%は地元企業が受注しているが、復興工事が本格的に始まれば、大手の参入は不可避とみている。宇部会長は「それができる企業は限定される」と語る。宿舎を建て、職人を連れてくる企業だけが可能とみているからだ。

復興JVの導入で他県の業者が応援に入ることも予想される。宇部会長は「近隣の青森県、秋田県、山形県の各業界と相談することになるが、岩手県の場合は秋田県が中心になるのではないか」と復興JVの導入に前向きな姿勢を示した。

○発注者は価格動向に関心を
岩手県でも入札不調が出始めている。労務費や資材価格の上昇が続くが、地元業界では「工事が出るというだけで資材などの価格が上昇する。発注者は発注するだけで、価格の上昇には関心がない」といった意見のほか、県の建築工事は、見積もりした価格の8割をさらに歩切りして予定価格を設定していることも聞かれる。

さらに、十分な設計、見積もりが行われないまま発注されているという実態を、他県から搬入しなければならない砕石の例を取り上げて指摘する。

「入札不調の工事を増やすべきだ」という意見もある。入札不調を増やすことで、発注者に単価の見直しなどを求めようというわけだ。いまが正常化するチャンスと、改善を求める。

岩手県の復興費は8年間で総額8兆円の規模にのぼるが、宇部会長は「これが終わったら、その後は何もない。10年後にはかなりの会員が廃業を迫られるかもしれない。協業化を図る必要がある」と将来を見据えた対応も視野に入れている。

★豊田剛全中建副会長の話
全中建として何ができるかを考えるために宮城、岩手の会員を訪れたが、復興のビジョン、将来像がまだ出来ておらず、そのために業界が右往左往しているのが実態だ。復興ビジョンが出来ていないためだと思うが、現在やっていることは、これまでの延長線上の仕事だ。労務単価が低すぎて、他県からの支援が期待できないのではないか。これで復興事業が進められるのか疑問に思う。いずれ復興事業が本格的に始まれば大手が出てくると思う。現時点で被災地に大手が入っていないのは、首長がしっかりしていることの表れだろう。もう少し復興事業が動き出した段階で、全中建としてどのような支援ができるのか考えることになると思う。