2012年新春対談 建設業の進むべき方向は……(2)

■契約制度の新しい枠組みの実現へ
豊田:脇先生が委員長を務め、超党派で構成する「公共調達適正化研究会」における検討が進み、予定価格の上限拘束性の撤廃や2段階選抜の導入などを打ち出されるようだが、研究会の目的や検討の経緯、今後の方針等をうかがいたい。

脇:日本の公共調達制度は間違っていた。競争さえすればいいという子供じみた法律のもとで運用されてきた。そして、発注者も受注者もその法律さえ守ればいいという姿勢をとっている。仕事がたくさんあり、デフレではない昭和40~50年代の時期であれば、法律が不備であっても実害はなかったが、成長が止まり、デフレ経済の時代になると、仕事が少なくなって機能しなくなり、制度の悪いところが目立つようになった。

それでもマスコミなどは、一般競争入札を行うべきと主張してきたので、平成17年に「品確法」(公共工事の品質確保に関する法律)を制定して、入札契約制度の改善を図ったが、この法律はもともとの精神が会計法、地方自治法に基づいているので、制度を根本から変える内容とはなっていない。

会計法のもともとの精神が間違っているのだから、元を直そうという考えのもとに、超党派の議員が集まって検討を開始した。税金を使う仕事について、納税者も地域も発注者、受注者にとっても良い制度にするということなので、反対する人はいなかった。そこでは会計法の考え方を見直しするしかないという結論になった。土木学会も同じ方向で検討を進めているが、研究会は東日本大震災が発生したため検討を一時中断、昨年10月に再開した。この間に国土交通大臣も交代し、理解のある人が就任した。
当初、議員立法として国会への提出を考えていたが、閣法(政府提案の立法)でやったほうがいいという意見があったので、国交大臣、財務大臣にも話し、理解を得ている。現在、原案作成に向けて国交省、財務省と話し合っているところだ。安ければ安いほどよいという競争させる仕組み、予定価格の上限拘束性などの制度は間違っている。新法を通じて政府調達制度のさまざまな点を正していこうと思っている。

新しい法律ができれば、発注者の対応も大きく違ってくる。例えば現在、発注者は細かく積み上げて予定価格を作成しているが、新しいシステムのもとでの競争には今のような積算業務は必要がなくなる。積算は手間がかかり、多くのマンパワーを割いているので、人が余ることになるが、その職員は、業者選定のための事前審査や検査の業務などに回せばいい。例えば、テレビの価格は、原価を積み上げて決めているわけではない。工事も交渉して予算に合ったものをつくるようにすればよい。これまでの方法にこだわるのは止めたほうがいい。

豊田:超党派で新法制定に向けて取り組んでいる意味は大きいと思うが、新法制定となると大変ではないのか。

脇:公共工事の調達制度の正しいあり方を、皆さんに理解していただければ、法律は通る。

小野先生は難しいと思われることをさらっと言われる(笑)。予定価格とか、落札率といった言葉が社会に浸透している。

脇:発注者が予定価格をなくせばいい。予算確保のために、落札参考価格、落札希望価格はあってもいい。今の予定価格は参考価格にすればいい。

小野:予定価格は、現に会計法、地方自治法に規定されており、これを無視することはできないのではないか。

脇:会計法を改正するのではなく、新法に会計法の規定は公共事業の調達に適用しないと書けばいい。どの国にも、わが国の予定価格制度のような制度はない。このような制度のもとで、入札契約制度がうまく運用できるわけがない。

■納税者、発・受注者にとって良い制度へ
豊田:昨年6月に国土交通省が「建設産業の再生と発展のための方策2011」を発表し、この方策に沿って政策が進められている。「方策2011」をどのように考えるか。

小野:災害対応空白地帯の解消、地域建設業の再生を目指して、予定価格の事前公表の廃止、地域維持型JVの導入などを打ち出し、大きな前進があったと思っている。今後、不良不適格業者の排除のための社会保険への加入、業種区分の見直しなどの措置について検討されようとしている。

しかし、地方には仕事がない、競争が激化してダンピング受注が後を絶たない状態が続いており、こうした事態を発生させるそもそもの原因を正さないと、地域JVなどを導入しても地域の建設業の再生は難しいと考える。

脇:間違った制度のもとで、少しでも間違ったところを直したい、工夫して改善の成果をあげたい、とあがいているのだろうが、あまり意味のあることではない。

例えば、道路の維持管理業務を毎年、同じ業者がやるのは問題だと言う人がいるが、そういう考えは間違いだと思う。毎日、同じ奥さんがいるのはおかしいと言っているようなものだ(笑)。工事に精通した馴れた業者が仕事をやることがいいのに決まっている。地域の建設業を維持するのであれば、同じ会社に仕事を出すのは当然のことだ。もちろん、馴れ合いにならない工夫が必要だが、良い仕事をする業者が評価されるようにしないといけない。根本が間違っているから、直そうと動いている。

小野:同じレベルの業者による競争の確保ということで、入札に参加する業者数を増やそうとしている。それがダンピング多発の要因の一つになっている。

脇:今の法律が正しいと思っているから、裁判官でさえ、落札率9割以上の入札はおかしいと言っている。ダンピングはだめだと言うのであれば、ダンピングを行う業者とは契約をしなければよい。法律が変われば、今やっていることは無意味になる。新法の目指すのは、納税者が納得し、発注者、受注者にとっても良い制度にすることだ。業界も良い制度に変えてほしいと主張してくれればいい。

豊田:落札率90%以上はおかしいという考えは、マスコミにもある。

脇:マスコミは世論をあおるのが商売だ。いつの時代もマスコミが正しかったことはないと言う人もいる。

■本質的な議論が求められるTPP問題
豊田:政府はTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の交渉参加に向けて協議を開始することを表明したが、TPPに日本が参加した場合、建設業にはどのような影響が考えられるか。

脇:オバマ大統領が言っているように、TPPは米国が自国の雇用者を増やす目的で推進しようとしている。それが日本にとってプラスかどうかが問題だろうが、米国が言うことだから聞くことも日本の国策かもしれない。だが、TPPに参加することが国を開く、参加しなければ閉じるというのは全くの嘘だ。

米国も日本も同じだが、先進国の製造業はいつか競争に負ける宿命にある。技術開発し、新製品を発売しても、いったん技術移転すれば、労賃が高いから先進国は競争に勝てないのである。自動車だって米国は日本に負け、韓国などにも追い上げられている。先進国は製品の生産だけでは生きていけない。

米国は、金融業や保険業、弁護士業などのサービス部門で稼ごうとしている。だから関税ではなく、非関税障壁をなくすことを要求している。米国のサービス部門の主要な就業者数はせいぜい全体の10%程度だろうが、この10%で国を動かしていける。米国のねらいは農産物などの輸出にあるのではない。むしろ乳製品ではニュージーランドに太刀打ちできない。だから、米国の農家はTPPに反対している。

サービス部門に属する建設業はねらわれている。かつて日米建設協議を受けて米国の建設企業が入ってきて、仕事をとったら、1~2割マージンをとっていくということがあったが、そんなことを許していいわけがない。非関税障壁には言語や地元企業の活用などの契約の仕方も含まれるかもしれないので、それが撤廃されれば建設業は大変なことになる。

日本はTPPに参加するかどうかの議論の前に、今後、米国とどのようにつき合うかということが問われている。日本は米国の軍事力に依存し、60年間、米国と良好な関係のもとで暮らしてきたが、これまでどおりに頼るのか、それとも自前の軍事力を持つのかを含めて、米国とのつき合い方について答えを出す時期に来ているということだ。

TPPにはプラス面もマイナス面もある。日本は米国とも韓国、中国、東南アジア諸国ともうまくやろうというなかで、どのように生き抜いていくのか、そのための知恵を出さなければいけないのに、知恵を出さずに開国か鎖国か、という点のみで議論している。公共調達の問題と同様に本質論の議論ができていない。

豊田:具体的に公共工事の政府調達はどうなるのか。

脇:詳しい内容は分からないが、TPPに参加すれば、たぶん日本の建設業は大きな影響を受けると思う。日本のサービス部門で儲けたいと本気で考えている米国に対して、今後の交渉で米国の要求にノーと言えるか、どうかだと思う。

■問題意識をもって社会にはっきり発言
豊田:新年に相応しく明るい話題を。

脇:建設業だけが良くなることはない。日本が発展するにはインフラ整備を増やす、デフレ経済から脱却して成長軌道に乗せる。そのためには公共投資が必要であるが、財政がひっ迫するなか、具体的にどんな対策を講じるかという点からスタートしないと、建設業だけでなく、日本はもたないと思う。

選挙が行われれば政権が代わる。半年後、1年後にその状態になることが考えられるが、そのときに建設業はどちらを向いて、政府に何を期待するのか、あるいは、どういう政権を望むのかが問われることになる。だから建設業は、社会資本を増やせ、契約の仕方を変えろ、地域建設業のことを考えろといったことをはっきりと言う時期に来ている。仕事がほしい、落札率がどうの、と言っている時期ではもうない。

小野:静岡県では、中小建設業界代表の私を含めて、7年振りに「県建設業審議会」が再開され、官民が連携して建設業に関する議題に取り組む体制ができた。また、地域住民の代表である全ての県議会議員に、広報紙「全中建だより」を配布しているが、徐々に建設業への理解が深まってきたように感じる。

脇:建設サービスはどんな仕事にも関連する。だが、地域を支える建設業がどういう役割を果たしているのか理解されていない。有識者と呼ばれる人たちも理解に乏しい。そういう有識者を集めて審議会をやっている。建設業を理解してもらう努力が必要だ。全中建は政治的な存在でもあるから、問題意識をもってしっかりと発言すべきだ。

小野:建設業は耐震など、防災・減災へ取り組み、さらには自然エネルギーの開発にも中小企業として参加したいと考えている。

脇:歴史的には、東北地方で大地震が発生した後、10年以内に関東で地震が起きている。東海地方でも6、7割の確率で10年以内に地震が発生している。この過去の事実を踏まえ、今後の10~20年間が震災対策を進める重要な期間となるだろうから、建設業は行政と一緒になって国民の期待に応える必要がある。建設業がやるべきことは多い。

小野:反転攻勢に転じる時期に来ている。

脇:建設業は、人間が暮らしていくうえで、なくてはならない産業であり、他を利用してのし上がるのではなく、だまっていても必要とされるわけだから、自信をもって社会に対して発言していけばいい。建設業はこれまで政治などの力でおとしめられ、そのイメージが歪められてきた。国民の建設業に対する意識を正していくことが大切だ。他産業であれば自分たちの努力で解決できる分野があるが、建設業の場合、とくに公共部門に関する問題は、業界の努力だけでどうにかなるというものではなく、悩みの尽きない産業である。

豊田:いろいろとご指摘いただき、ありがとうございました。全中建としても各種会議の場で議論し、関係各方面へ働きかけることとしたい。今後ともご指導をお願いいたします。