公共工事における低価格落札容認を憂う

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長野市の浅川ダム本体工事に最低価格で応札したJV(共同企業体)の入札価格52億円は、予定価格82億1544万円の63.3%に当たり、予定価格の85%を下回り、低入札価格調査の対象となっていた。長野県会計局が1月下旬に出した調査の結論は、工事(履行可能)であった。

調査結果の閲覧による公表は、調査の手続きを定めた県の要領に従い、契約締結後になるとのことで、まだなされていない。発表された概要説明だけでは判断根拠の詳細は不明である。だがこんな非常識な応札と調査を等閑視する訳にはいかない。

予定価格の63.3%という低い価格が妥当だとすれば、予定価格の意味はないことになる。この水準を妥当だとする根拠があるのであれば、自身の積算に問題があることになる。こんなことでは、予定価格を弾く資格はない。また通常の工事入札で、今回の水準よりかなり高い水準(80~90%)の失格基準価格を長野県は設けているが、その根拠もなくなるではないか。

ところで、この入札価格が飛び抜けて異常に低いとはいえ、そもそも他の5JVの入札価格が予定価格の86~77%であったことにも、極めて疑問を持つ。結局適正な価格というよりも、落札を意識した価格だったということに他ならないのである。また最低のJVにだけ、さらに格段に低くなる特殊事情があるとするならば、その根拠が明確に示されなければならない。

筆者はこれまでしばしば指摘してきたが、予定価格は標準的な工法・製作方法・資材調達などに基づき、実勢単価によって積算されているから、商品の定価ではなく、実際販売価格に相当する。定価なら大幅に値引きをする余地はあるが、販売価格にはそんな余裕はない。基本的には適正価格である。〝巨額の不当な利益〟は含まれていない。適切な積算単価で積算してあれば、通常は落札価格と予定価格の差は精々数%以内であるはずである。

建設界は何年も前から予定価格をかなり下回る落札が繰り返され、いわゆるデフレスパイラル(負のスパイラル)に陥っている。したがって、現在の予定価格の水準は適正価格の水準を切っていて、落札率が100%でも、無理な状況にある。本来ならば応札額がすべて予定価格を超えて、不調となっても不思議ではない。そうした中での、大幅な落札率の低下は極めて異常であると言わざるを得ない。

実際に大きな値引き率での落札が頻出しているではないかという指摘がある。しかし利潤を度外視し、出血覚悟の自転車操業、場合によっては違法なことをも考えて、ともかく落札することだけを狙っての応札が落札結果を左右している。これが実態なのである。今回のようなことを許していては、マスコミの不当に高い予定価格だという無責任なキャンペーンを建設関連の官業界自らが認めることになるではないか。その罪は万死に値する。

今回落札したJVは大手ゼネコン1社と地元業者2社からなっている。大手はかなり無理が利くから、それに地元の小規模業者が巻き添えにされているという側面も見逃せない。日本の経済界は大手企業だけで成り立ってはいない。中小、地方業者との共存で、日本的経営は独自の繁栄をしてきたのである。トヨタといえどもそうである。大手企業だけが生き残れるはずはない。今の日本は奈落の底に向かっているとしか言いようがない。

建設界が今しなければならないことは、数値的裏づけを含む具体的な建設市場の実態を正直に示して、説明責任を果たし、世間に理解を求めることである。同時に今回のような自殺行為に官民挙げて厳しく対処して、自助努力で危機を乗り切らなければならない。

さて、長野県が公表している概要説明には、〝品質確保のための監理体制の強化〟策が一応示されている。しかし、その内容と入札価格の妥当性に関する曖昧な判断がなされていることから考えると、実効性は極めて疑わしい。下請泣かせ、低賃金の強要、粗悪材料の使用、適切な施工の欠落などがないかについての竣工前検査と、竣工後に工事コストの内訳提出と監査を受けることを義務付け、竣工前検査・竣工後監査に不合格の業者は以後の入札資格を一定期間(かなり長期)剥奪するものとするような、厳しい対策を実施すべきである。

最後に、政府・民主党の経済施策の誤りについて触れておく。

日本経済の落ち込みは深刻で、極めて憂慮される事態に至っている。1986年以降国民一人当たりのGDPランキングが一桁を維持していた(その間最高が3位で5年ある)が、2008年には20位近くにまで下がり、先進国では下位に甘んじている。このような危機を脱し、政府の借金を減らすには、思い切った財政出動と減税を行うことこそが正解である。日本にはそれを行えるだけの実力がある。必要な公共事業に勝る乗数効果・雇用増大効果施策はない。一昨年のリーマン・ショックによる世界経済危機に際して、中国でさえも思い切った公共事業財政出動施策を採り、成功している。日本だけが取り残されている。正しい財政出動施策で大不況を回避したという、世界と日本の過去と現在の多くの貴重な経験に学ぶべきである。政府・民主党は的確な現状認識と危機感が欠落している。公共事業費を削減するために、「コンクリートから人へ」などという、極めて間違った、感覚的なキャッチフレーズを唱えている。多くのマスコミ、学者、エコノミストも触れないのであるが、小泉内閣の公共投資縮減施策が却って政府の借金を大幅に増やしたことを思い出していただきたい。

本文は4月15日に発行した拙著「老兵消え去る前に」(㈱パレード発行、税込1,000円)に収録されているものとほぼ同じであることをお断りする。